前回は、あおぞら投信が組成する、約5年間で15%の基準価額上昇を目指す「ぜんぞう」シリーズをご紹介しました。

今回は、その「ぜんぞう」シリーズの中でも、株式部分だけを切り出した100%グローバル株式の「あおぞら・徹底分散グローバル株式ファンド(愛称:てつさん)」について紹介します。
「てつさん」はその名の通り、徹底的な分散投資と、ノーベル経済学賞受賞者の知見に裏打ちされた運用哲学が魅力のファンドです。今回は日頃に比べて個人的な趣味の記載部分が長いです。
投資初心者の方は、大人気商品である「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」(以下、「オルカン」)との比較部分を中心に読み進めてみてください。
商品分類
投資対象/地域 | 国内 | 海外 | 国内外 |
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株 | |||
債券 | |||
REIT | |||
バランス | |||
その他 |
コース名 | 「あおぞら・徹底分散グローバル株式ファンド(愛称:てつさん)」 |
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運用会社 | あおぞら投信株式会社 |
ファンド設定日 | 2015年3月27日 |
投資対象 | 内外株式 |
購入時手数料上限(税込) | 3.3% |
信託報酬(税込) | 年0.8355%程度 |
信託財産留保額(税込) | なし |
NSIA成長投資枠 | 〇 |
NISAつみたて投資枠 | 〇 |
残高_2025/4/30時点 | 約123億円 |
徹底分散投資の極致 ~オルカンとの比較~
「てつさん」は、その愛称が示す通り「徹底した分散投資」を特徴とする全世界株式ファンドです。
長期的な資産形成を目指す投資家にとって、「銘柄分散」の観点からにおける選択肢となるでしょう。
分散投資は、特定の銘柄やセクターのパフォーマンスに過度に依存するリスクを回避し、予期せぬ市場変動からポートフォリオを守るための基本原則です。幅広い分散は、特定の国や企業に限定されず、世界経済全体の成長の恩恵を幅広く受けることを可能にします。
「てつさん」は、この分散投資を極限まで追求することで、市場全体の成長を効率的に捉えることを目指しています。その分散の度合いを、多くの個人投資家から絶大な人気を博しているグローバル株式ファンド「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」(以下、「オルカン」)と比較しながら見ていきましょう。
圧倒的な銘柄数!「てつさん」はオルカンの約4倍超に分散
「てつさん」は、全世界の11,566銘柄に徹底的に分散投資を行っています(2025年4月末時点) 。この圧倒的な銘柄数は、市場に存在するほとんどの企業に幅広く投資していることを意味し、極めて高い分散性を実現しています。
一方、「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」(オルカン)は、その手軽さで個人投資家から絶大な人気を博しており、その組入銘柄数は2,533銘柄(2025年5月末時点)です 。
4桁銘柄に分散しているだけで十分な分散ですが、「てつさん」の銘柄数はその約4.57倍に相当します。
この銘柄数の大きな違いは、後述する市場全体に存在する様々な収益源を網羅的に捉えようとする戦略から生まれています。特に、一般的なインデックスファンドでは含まれにくい小型株にも広く投資することで、学術研究によって長期的に高い期待収益率が示唆されている「サイズプレミアム(小型株が大型株を上回る傾向)」を得られる可能性を高めています。
このように、分散の「量」は、より多様なリターンを捉える機会を生み出します。これは、単に「卵を一つのカゴに盛らない」というだけでなく、「期待収益率がプラスとなる可能性がある卵を、あらゆるカゴから集める」という信念に基づいた運用アプローチと言えるでしょう。
「てつさん」と「オルカン」の銘柄数比較表
ファンド愛称 | 組入銘柄数(概算) |
---|---|
てつさん | 11,566銘柄 |
オルカン | 2,533銘柄 |
先進国・新興国比率から見る「てつさん」と「オルカン」
グローバル株式ファンドは、世界経済の成長を取り込む上で不可欠な選択肢ですが、その地域配分、特に先進国と新興国の比率は、戦略によって大きく変わります。
「てつさん」は運用報告書によると、新興国株式を主要投資対象とする投資信託証券への投資比率は「資産総額の20%程度を上限」とされています 。
一方、「オルカン」は、主に「MSCI All Country World Index (ACWI)」というグローバル株式インデックスに連動することを目指しています。「オルカン」の2025年5月末時点の新興国株式への投資比率は10.3%です 。これは、現在の世界株式市場の時価総額構成に概ね準じています。
上記の通り、「てつさん」は新興国の組入割合が「オルカン」の約2倍程度となっています。インドなどを含む、新興国の高い成長期待に少し比重を置いた戦略的配分であることが分かります。
「てつさん」と「オルカン」の先進国・新興国投資比率比較表
ファンド愛称 | 先進国株式比率 | 新興国株式比率 | 組入上位3か国 |
---|---|---|---|
てつさん | 77.3% | 20.3% | 米国56%、中国5.7%、日本5.3%、インド4.1%、台湾3.9% |
オルカン | 89.6% | 10.4% | 北米62%、日本4.9%、イギリス3.3%、カナダ2.8%、フランス2.5% |
過去データ ~先進国株式VS新興国株式~
なお、データを遡れる範囲における先進国と新興国のリターンの差を以下のグラフに表示しております。
直近15年間程度はご存じの方も多いかとは思いますが、米国大型株7社のリターンが圧倒的であり、先進国の方が新興国より優位な展開となっておりました。
一方で指数提供会社が提示している1987年末以降のデータで見ると新興国のリターンが9.61%、先進国のリターンが8.61%(いずれもドル建)と、新興国が上回っていることが分かります。
てつさんおよびオルカンは全世界株式に投資を行っておりますので、先進国・新興国どちらのリターンも得ることができますが、その投資比率によって時期毎でリターンの優劣が変わってきます。
なぜ、オルカンに対して勝っているor負けているのだろう への回答はこの項目と次の項目で大抵説明がつくものと思われます。
インデックス(MSCI社)で見る先進国株と新興国株のリターン遷移
(単位は%。ドル建。3年以上リターンは年率換算。期間:1987.12末~2025.5末)
投資対象 | 1年 | 3年 | 5年 | 10年 | 1987.12末~ |
---|---|---|---|---|---|
先進国株式 | 14.21 | 13.72 | 14.72 | 10.50 | 8.61 |
新興国株式 | 13.64 | 5.64 | 7.20 | 4.34 | 9.61 |
全世界株式 | 14.16 | 12.83 | 13.89 | 9.80 | 8.42 |
Dimensional社のアカデミックなアプローチとは?
ここから先は、本商品の運用スタイルについて、少し専門的な内容になります。
「てつさん」の組入ファンドの運用を担うDimensional Fund Advisors (以下、ディメンショナル)の最も大きな特徴は、その徹底したアカデミック(学術的)なアプローチです。
ディメンショナルの運用哲学は、単なる市場予測や銘柄選択を行うものではありません。ノーベル経済学賞受賞者ユージン・ファーマ教授をはじめとする金融科学で得られた知見を、実際の投資戦略へと落とし込むアプローチです。
彼らは「市場が効率的である」という信念に基づき、価格に含まれる情報を利用してより良いリターンを追求し、リスクを管理します。
※この意味では、インデックスの運用に近い考え方です。
(少し趣味的内容) 市場は効率的である ~効率的市場仮説~
ユージン・ファーマ教授は2013年にノーベル経済学賞を受賞した経済学者であり、長年にわたりディメンショナルにコンサルティング・サービスを提供しています。彼の研究は、現代金融理論の基礎を築きました。
ファーマ教授の提唱する「効率的市場仮説(Efficient Market Hypothesis: EMH)」は、証券アナリストのテキストなどでも、株式分析の重要な基礎概念として触れられています。この仮説には以下の3つのレベルがあり、それぞれが市場の効率性について異なる意味を持ちます。
- ウィーク型効率性: 過去の株価の動きや取引量などの情報からは、将来の株価を予測して超過リターンを得ることは不可能であるという仮説です 。これは、テクニカル分析の有効性を否定します。
- セミストロング型効率性: すべての公開情報(企業の決算発表、新規公募、経済指標など)は瞬時に株価に反映されるため、公開情報を用いて将来の株価を予測し、超過リターンを得ることは不可能であるという仮説です。これは、ファンダメンタル分析による継続的な超過リターンの獲得が難しいことを示唆します。
- ストロング型効率性: 未公開情報(インサイダー情報など)を含む全ての情報が株価に反映されているため、いかなる情報を用いても超過リターンを得ることは不可能であるという仮説です。
ディメンショナルは、この効率的市場仮説、特に「セミストロング型効率性」の考え方を実践しています。
そのため、彼らは特定の銘柄選択や市場予測による超過リターンを追求するのではなく、市場に存在する「プレミアム」を捕捉するアプローチを取るのです。
DFAが重視する3つのファクター:小型株、割安株(バリュー)、収益性
ディメンショナルの運用哲学の基本は、投資に関する3つの側面(ディメンション)から成ります。これらは、学術研究によって長期的に高い期待収益率を持つことが期待されている特性です。

前提:株式の期待収益率は債券より高い:
株式はリスク資産であり、そのリスクに見合うリターンが期待されるという基本的な考え方
- 小型株プレミアム (Size Premium):
小型株は大型株に比べて流動性が低く、情報が少ないといった特性を持つため、そのリスクに見合う形で長期的に大型株を上回る期待収益率を持つという理論。ディメンショナルは小型株投資の新境地を開拓したパイオニアでもあります。
- バリュープレミアム (Value Premium)
価格の低いバリュー銘柄(株価純資産倍率PBRが低いなど、割安と判断される株)は、価格の高いグロース銘柄(成長株)に比べて、長期的に高い期待収益率を持つという理論です。
これは、市場が企業の本源的な価値を常に正確に評価できるわけではない、あるいはバリュー株に内在するリスク(例えば、業績不振の継続)に対する報酬であるという考え方に基づきます。
- 収益性プレミアム (Profitability Premium):
ディメンショナルはさらに、高収益な企業は、低収益な企業に比べて長期的に高い期待収益率を持つという「収益性プレミアム」にも着目しています。
企業の質に着目するこのファクターは、特に2014年にディメンショナルが既存戦略全体に導入し、その後、先進国市場で年率6.2%、新興国市場で年率3.1%のプレミアムを確認しています。
Dimensional社 HP 「All Day, Every Day, Multifactor All the Way」
https://www.dimensional.com/be-en/insights/all-day-every-day-multifactor-all-the-way
(少し趣味的内容) 最後に深掘り マルチファクターモデル
ディメンショナルの株式戦略は、上記サイズ、バリュー、収益性の各プレミアムを統合する「マルチファクターモデル」です。
これらのファクターは互いに補完し合う特性を持っています。
例えば、バリュー株は一般的に小型で収益性が低い傾向があり、逆に収益性の高い株はより高い評価を受ける傾向があります。ディメンショナルはこれらの相互作用を考慮し、ファクターを組み合わせることで、投資家にとってより良い結果をもたらすことを目指しています。
【個別株投資をされている方へ】
特にディメンショナルのバリュー戦略は、株価純資産倍率でバリュー株を特定し、その中で営業収益性を用いて収益性の高い株を重視することで、期待リターンを高めるとともに、潜在的なバリュートラップのリスクを軽減しています。
【細かい話はここまで】
ディメンショナルの真の価値は、単に学術理論を引用するだけでなく、それを実践的な投資に「橋渡し」する能力にあります。多くの運用会社が「リサーチ主導」を謳う中で、DFAは抽象的な学術的知見を、実証研究と合理的な運用プロセスを通じて、現実世界に忠実に落とし込んでいます。現実世界における学術研究の再現性の高さでは間違いなくトップランナーと呼べます。
なお、効率的市場仮説は「市場を打ち負かすことはできない」と誤解されがちですが、ディメンショナルは、市場の非効率性を突くのではなく、価格に含まれる情報を利用してより良いリターンを追求する方向に活用されています。
私がディメンショナルの運用手法に共感し、1つの「投資の教科書」と呼ぶことができると考えるのは、それが単なる流行や感情に流されることなく、何十年にもわたる厳密な学術研究と実証データに裏打ちされているからです。
下落した時に落ち着いていられる投資戦略だからこそ、購入側・販売側共に、予測不可能な市場の波に翻弄されることなく、着実に資産を築くための最も信頼できる道筋の一つだと考えています。
まとめ:「てつさん」は「徹底分散」か「第三の投資戦略」を求める投資家へ
最後はオタク語りになってしまいましたが、本記事をまとめると、「てつさん」は徹底的な分散投資と、学術研究に裏打ちされたディメンショナルの運用哲学の採用が大きな特徴となります。
従来の「アクティブ運用」と「パッシブ運用」という二分化された投資戦略の枠を超え、「スマートベータ」や「ファクター投資」と呼ばれる「第三の投資戦略」を具現化しています。直近で他社の似たような考え方のファンドも日本に上陸してきましたので、また後日、別の記事でご紹介する予定です。
インデックスファンドが持つ低コストという利点を享受しつつ、学術的知見に基づいた運用を組み合わせるというユニークな立ち位置が「てつさん」の核となる価値だと思われます。
高い費用を伴う従来のアクティブ運用に疑問を感じつつも、単純なインデックスファンドでは物足りなさを感じ、「運用に理屈や根拠を求めたい」投資家層にとって、「てつさん」は有力な選択肢の一つになるのではないでしょうか。
それでは、また~
関連記事はこちら:「ぜんぞう」 5年で15%増がキーワードの運用嫌い克服用商品 個別投信⑪
※金融の人間の端くれとして、毎度ディスクレーマーは記載しておきます。投資は自己責任です。
本サイトは趣味ベースの記事であることをご了承ください。
また、今回の記事は2025年6月15日時点で手に入る情報に基づき作成しました。
【ディスクレーマー】
・本記事の内容は日本内外問わず、いかなる証券についての取得申込の勧誘を意図するものではありません。
・本記事は信用に足る情報を元に作成していますが、記事内に含まれる情報の正確性、確実性を保証するものではありません。本資料に掲載されている情報によって、何らかの損害を被った場合でも、一切著者は責任を負いません。
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